~☆~ 光に触れるボディワーク&セラピー ~☆~ 埼玉県川口市の一日おひとりさま限定サロンです

宅配ボックスのサンタクロース

sakura01-006 宅配ボックスのサンタクロース

 

あ、届いてる!
マンションの宅配ボックスを覗き込んだ まゆこは、
嬉しそうな声を上げました。

わくわくしながら 暗証番号を打ち込み、品物を取り出すと、
それは、まゆこの予想通り、
ピンクのリボンのかかった美しい包装紙に包まれた贈り物でした。

 

いつからでしょうか?
こうして、毎年 クリスマスになると、
宅配ボックスに まゆこ宛のプレゼントが 届くようになったのは。

それは、まゆこの記憶のある限り、ずっと続いていることでした。

「いまどきのサンタさんは、
煙突から 忍び込むようなことをしないで、
礼儀正しく、宅配ボックスを使うんだね。」

まゆこのパパは、そう笑います。

 

宅配ボックスに届くとはいえ、
それは 宅配業者さんが運んできてくれるものではありませんでした。

プレゼントには、宅配便の伝票もついていなければ、
差出人も、宛名さえも 記入されていないからです。

ただ、クリスマスになると、
「まゆこさま」とだけ書かれた封筒が 郵便受けに届くだけ。

その封筒の中には、
宅配ボックスを開けるための暗証番号が記された カードが 1枚
入っているのでした。

 

パパは、礼儀正しいサンタさんだ、と言うけれど・・・

まゆこは、微笑みました。

まゆこには、
クリスマスプレゼントの贈り主が ちゃんと わかっているのです。

それは、まゆこの、ママ・・・のはずでした。

 

まゆこのママは、まゆこが生まれて、すぐに 死んでしまいました。

まゆこは、そう聴かされていました。
だけど、まゆこは、知っているのです。

パパと、親戚のおばさんたちとの会話から、
パパとママが、りこんしたのだ、ということを。

 

そのときのまゆこには、りこんという意味がわかりませんでした。

が、その言葉の意味を問うたなら、
いえ、その会話を まゆこが聴いていたことを 知ったなら、
パパが悲しむであろう、ということは、わかりました。

だから、まゆこは、
くまのぬいぐるみを ぎゅっと抱えて、
その言葉を、小さな胸の 奥の奥の奥の ずーっと奥に しまいこみました。

 

それから 幾年も経ち、
まゆこは ‘りこん’の意味を知りましたが、
そうなると、なおさら あの日のことを パパには 話せなくなりました。

いいもん。パパとママが 離婚したんだとしても。
わたしには、パパがいるもの。
それに、ママは、毎年 クリスマスプレゼントを 贈ってくれるもの。

まゆこにとって、ママは、
1年に1度だけ 枕元に姿をあらわす サンタクロースのような存在。

会いたいけれど、会うことはない。
その訪れに気づいたとしても、眠ったふりをしていなくてはならない。

まゆこのママは、
世界のどこかにいてくれれば、それでいい、
そんなひとだったのです。

 

毎年 宅配ボックスに プレゼントを入れてくれるのが ママだ、
と まゆこが 確信しているのは、
その贈り物が、まゆこの趣味に ぴったりのものだったから、
という理由も ありました。

まゆこの成長を 遠くから 見守ってくれているのでしょう。
そして、女親だからこそ わかる、今の まゆこの 欲しいもの。

ママ、今年も ありがとう。
まゆこは、自分の部屋の窓から 星空の輝く空を見上げると、
そっと つぶやくのでした。

 

 

宅配ボックスのサンタクロースは、
まゆこが 高校生になっても、大学生になっても、
毎年 プレゼントを 運んできてくれました。

それは いちどたりとも 忘れられることは ありませんでした。

 

 

ある年の夏。
まゆこは、とうとう サンタクロースと ご対面することになりました。

悲しい、悲しい、ご対面。
それは、まゆこのパパのお葬式により 実現したことだったのです。

 

まゆこのパパは、ある日 とつぜん 内蔵に病気が見つかり、
それから 数ヶ月後に、あっさりと
まゆこを置いて、ひとりで 別の世界へと 旅立ってしまいました。

パパの会社のひとたちが すべてを 取り仕切ってくれる中、
まゆこは、ただ ただ 呆然として
パパの写真を 見つめていました。

パパ・・・ どうして?

そんな まゆこの肩を、誰かが 優しく 抱きしめました。
かすかな記憶をくすぐる、懐かしい匂いが しました。

 

まゆこ・・・
私が、誰だか、わかる?

まゆこが その声に ゆっくりと 顔を向けると、
そこには、お葬式には似つかわしくないほど 美しい女の人が、
大きな黒い目で、まゆこを じっと 見つめていました。

その 大きな黒い目は、
まゆこが 鏡に向かったときに いつも こちらを見つめ返してくる、
まゆこ自身の目と、そっくり同じでした。

 

ママ・・?

ママの 大きな黒い目からは 大粒の涙が零れ落ち、
上品な黒い服が それらを 飲み込みました。

が、久しぶり、 いえ、
まゆこにとっては 初めての‘再会’。

ふたりの間に、どれほどの会話が 生まれるというのでしょう。

悲しみと動揺で 揺れるまゆこには、
母親にかけることのできる言葉は そう多くは
見つかりませんでした。

 

パパと別れてから ずっと アメリカで暮らしている、
というママは、お葬式が終わると、すぐに
帰り支度を始めました。

ごめんなさいね、まゆこ。
本当は、あなたと一緒に・・・

それ以上は言えずに 口ごもるママに、
まゆこは、首を 振りました。

大丈夫です。
わたし、パパと一緒に過ごした この家に、いたいの。

そして、あっと 思いだし、
まゆこは、 ママの手を取りました。

あの・・・ママ?
毎年、クリスマスプレゼントを、ありがとう。

えっ?

いぶかしげな顔をしているママに、まゆこは 早口で 付け加えました。

いつも、クリスマスになると、
うちの宅配ボックスへ、プレゼントを 入れてくれていたでしょう?

・・・・・。

 

ママは、大きく目を見開いて、なにかを 考えているようでした。

その不自然な沈黙に、まゆこは、
自分の長年の思い込みが 間違っていたことを 知りました。

ごめんなさいね、まゆこ。
さっきも言ったように、私は ずっと アメリカにいたの。

あなたに そんなことをしてあげられるような環境では なかったのよ。
それは、きっと・・・

ママは、いちど 言葉を切ると、ふたたび 口を開きました。

あなたの、パパ・・・じゃないかしら?

 

えっ?パパが? なぜ、わざわざ?
パパは、もちろん、毎年 わたしに プレゼントをくれたけれど、
それは いつも、私の欲しいものを、ふたりで 買いに行っていたのよ?

ママは、目を伏せ、かすかに 口元をゆるめると、話し始めました。

マサノリさんは・・・あなたの パパは、
初めて私と出会ったクリスマスから、
結婚して、あなたが生まれた 次の年のクリスマスまで、ずっと、
私にも、同じことを してくれていたのよ。

もちろん、直接 手渡してくれるプレゼントも あったけれど、
それとは別に、知らん顔して、宅配ボックスに プレゼントを
匿名で 届けてくれていたの。

そういう、いたずらっこのようなところが、
あのひとには あったから。

 

ママは もうそれ以上 なにも言いませんでした。

そして、もう一度 まゆこを 抱きしめると
そっと まゆこから 離れていきました。

 

あのサンタさんは・・・
パパだったの!?

まゆこは とつぜん、激しく 泣きだしました。

パパ、パパ。
ごめんなさい。
わたし、ちっとも 知らなかった。

宅配ボックスのサンタクロースが パパだったなんて。
よりによって、わたし、
それを ママからのプレゼントだと 信じていたなんて。

 

ごめんなさい、ごめんなさい、と 繰り返しながら
泣きじゃくる まゆこを、
弔問客らは 遠巻きに 見ているしかありませんでした。

 

 

どんなに 悲しく辛い1年であっても、
冬になれば、クリスマスは やってきます。

その晩、帰宅した まゆこは、
郵便受けに、見慣れた封筒が 届いているのを 見つけました。

 

中には いつものように、
宅配ボックスの暗証番号が打刻されたカードが 入っています。

・・・どうして?
パパは もう、いないのに。

震える手で まゆこが 宅配ボックスを開けると、
そこには、小さなプレゼントが 入っていました。

いままでと同じように、ピンクのリボンで 美しくラッピングされて。

 

パパ・・?
まゆこは 慌てて マンションを 飛び出しましたが、
外には 誰もいません。

家の中にも、もちろん、パパの姿は ありません。

 

パパ・・・?

まゆこの声が 聴こえたのでしょうか?
懐かしい パパの匂いが まゆこの鼻先を かすめましたが、
すぐに それも 消えていきました。

 

まゆこは、床へ へたりと 座りこみました。

あの、パパのお葬式のとき。
ママは、アメリカから持参したというプレゼントを
まゆこの元へ 残してゆきました。

とても素敵なデザインのものでしたが、
まゆこは、それによって、
サンタがママではなかったのだ、ということを 改めて 感じました。

毎年 まゆこの好みやサイズにぴったりのものを 贈ってくれていたのは、
やはり、一緒に暮らしていたパパでしか ありえなかったのです。

 

そんなことにも 気づかなかったなんて・・・

まゆこは、いま すぐにでも あふれてきそうになる涙を抑え、
パパの写真に向かって、にこりと笑いました。

いたずらっこパパのいたずらは、大成功よ。
わたし、ずっと だまされていたんだから!

パパの匂いが ふたたび、さらり と まゆこの髪を 撫でました。

まゆこは 我慢できなくなり、
贈りものを抱きしめながら、いつまでも 泣いていました。

 

その次の年も、また その次の年も、
宅配ボックスのサンタクロースは、
まゆこに プレゼントを 残していきました。

サンタの正体は わからないままでしたが、
まゆこは、どんどん成長してゆく自分に合わせたプレゼントに、
胸が温まるのを 感じていました。

 

パパがいなくなって、4年目の、クリスマス。

その日、仕事から戻った まゆこを 待っていたのは、
宅配ボックスのサンタクロースでは ありませんでした。

 

あ、カゲヤマさん!

スーツ姿で マンション前に 立っていたのは、
パパの部下であった、カゲヤマという若い男性でした。

「マサノリさんには 公私に渡り、ずいぶん お世話になったんです」
と、ことあるごとに 口にするカゲヤマは、
お葬式の後も、数ヶ月に1度は まゆこの様子を見に来てくれていました。

 

そのカゲヤマは、まゆこの姿を見ると とつぜん、
大きく 頭を下げました。

まゆこさん。
今日は、お詫びがあって、参りました!

 

びっくりして 立ち尽くす まゆこに、
カゲヤマは、一気に しゃべりまくりました。

実は・・・
マサノリさん、いえ、お父さまが亡くなった年のクリスマス、
お父さまから 宅配ボックスへ入れてくれるよう 頼まれたのは、
このカードだったのです!

カゲヤマは、まゆこに そのカードを 手渡したものの、
それを 読む暇も与えず、続けました。

 

マサノリさんは、まゆこさんへの 最後のクリスマスプレゼントとして、
僕に、そのカードを 託されました。

しかし・・・
僕には、そのカードを まゆこさんに 渡すことが、できませんでした。

僕は、マサノリさんの部下になってからというもの、
まゆこさんへの 宅配サンタからのプレゼントを用意するときは
毎年 ご一緒させていただいていました。

だから、だから・・・

まゆこさんへのプレゼント選びには、自信があります!

それで、この3年間は、僕が・・・
この僕が、宅配サンタを やらせていただいていたのです!

申し訳ありません!
騙すつもりは、ありませんでした!!

しかし、あのときの まゆこさんに、
そのカードを お渡しすることは、
僕には どうしても できなかったのです!

 

そこまで 一気に まくしたて、
ふたたび 身体を90度に曲げて 頭を下げるカゲヤマに、
まゆこは なにも 言えませんでした。

 

手渡されたカードは、
毎年 クリスマスに郵便受けに届いていたのと 同じデザインの
あのカードでした。

が、今、まゆこが手にしている そのカードに 書かれているのは、
いつもの暗証番号ではなく、しっかりとしたパパの文字です。

君には もう、サンタクロースは、要らない。

 

不思議と、まゆこの目には、
もう 涙は 浮かんできませんでした。

まゆこは、まだ 頭を下げ続けているカゲヤマに、
歩み寄りました。

パパの残してくれた、最後のプレゼント。

 

背後に回された 彼の左手には、ピンクの薔薇の花束が握られていましたが、
身体を直角に折り曲げて 頭を下げているおかげで、
隠したつもりの その花束は、丸見えです。

くすり、と笑う まゆこの声に、カゲヤマが 顔を上げました。

 

なぜかしら 彼からは、
いつも、パパと同じ 懐かしい匂いが しました。

外では 粉雪が 舞い始めたことを、ふたりは まだ 知りませんでした。

 

 

~ 2009.12.25 ~

 

 

heart-wing02-003 ふんわりすとーりー index へ

 

 

お問い合わせは、こちらから どうぞ

  • Facebook
  • Hatena
  • twitter
  • Google+
PAGETOP
Copyright © オフィス ふんわりすと All Rights Reserved.
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.