~☆~ 光に触れるボディワーク&セラピー ~☆~ 埼玉県川口市の一日おひとりさま限定サロンです

小さな桜の木の物語

sakura01-006 小さな桜の木の物語

 

街の公園に、桜の木が 咲いていました。

桜の木にしては、小さめです。

彼女は、大きな先輩方とは ちょっと 離れた場所で
ひとり 咲いていました。

 

大きな桜の木の下には、大勢のひとが 集まります。

シートを敷いて 宴会をするひとたちも います。

小さな桜の木は、少し離れた場所から、
その様子を 見ていました。

 

小さな桜の木の下には、
誰もが、ひとりずつ、やってきます。

誰もが、ひとりで 小さな桜の木の下にやってきて、
誰もが、黙って、彼女の花を 見つめるのでした。

瞬きもせず、花を 見ている者。
目を閉じて、香りを ゆっくりと 吸い込む者。
愛しそうに、幹の部分を 撫でる者。

彼女に寄ってくるひとびとは、どこか 寂しげでした。

そして 不思議と、
彼女の元へ やってくるひとは、みな、
彼女と お話ができるのでした。

 

小さな桜の木は、ささやきます。
「こんにちは。」

小さな桜の木の下にいるひとは、
にっこりと 微笑みます。
「こんにちは。」

 

通学路から 少し外れて 寄り道をした
この小学生も、 そうでした。

お友達とケンカでもしたのでしょうか、
目の端に 涙の跡が ありました。

小さな桜の木は、それには 触れず、
ちょっとだけ 腰をかがめて、
小学生に 小声で 言いました。

「この枝を、お持ちなさい。」

そして、花が たくさんついた  満開の小枝を、
そっと 落としました。

「えっ? いいの?」
小学生は、びっくりして 顔を上げました。

「いいのよ。 おうちに帰ったら、
お水の入ったコップに挿して、 だいじにしてね。」

小学生に、笑顔が 戻りました。
「うん。だいじにする! どうもありがとう!!」

小学生は、 小さな桜の木に お礼を言うと、
来たときとは まるで違った 足取りで、
ランドセルを カタカタ鳴らしながら、駆けてゆきました。

 

杖をついて ゆっくりと歩く おばあさんも、
そうでした。

おばあさんは、公園のベンチから 立ち上がると、
大きな桜の木には 目もくれず、
小さな桜の木のそばへ  ゆっくりと ゆっくりと やってきました。

小さな桜の木を見上げる おばあさんの目には、
なにが うつっていたのでしょう。

楽しかった桜。
嬉しかった桜。
寂しかった桜。
苦しかった桜。

おばあさんの目の中に、
年齢の数だけの さまざまな桜が 通りすぎてゆくのを、
小さな桜の木は、じっと 見守っていました。

 

やがて、おばあさんの瞳は、
数年前の春、長年 連れ添った おじいさんを 亡くしたときの
悲しい桜で
いっぱいになりました。

悲しい桜は、万華鏡のように 姿カタチを変えながら、
おばあさんの中で
くるくると 回り続けました。

悲しい模様が止まらないのを  見てとった
小さな桜の木は、
おばあさんに、小さな枝を 落としました。

万華鏡が止まり、
おばあさんは ようやく、
目の前に立っている 小さな桜の木を、
瞳の中へ 迎え入れてくれました。

 

「この桜は、 どんな桜になるのかしら?」
小さな桜の木は、 おばあさんに 問いかけると、
いたずらっぽく 小首をかしげました。

「そうねぇ。 優しい桜・・・かしらねぇ?
来年、報告に来ますよ。 どうもありがとう。」

おばあさんは、ていねいに お辞儀をすると、
桜の小枝を 大事そうに抱えて、
ゆっくりと 歩いてゆきました。

「きっと、ですよ?  来年も、来てくださいね。」

小さな桜の木の言葉に
おばあさんは ふりかえると、
もう一度、深々と お辞儀をしました。

小さな桜の木の脇を すーっと通り抜けた
風の小坊主が、
そっと おばあさんの背中を押して、
家まで  送り届けてくれるつもりのようでした。

 

夜遅くに公園を訪れた サラリーマンも、
そうでした。

花見酒の帰りに、
ひとり 桜を眺めたくなったのでしょうか?

ネクタイをゆるめた サラリーマンは、
頬に かすかな赤みを残し、
彼女の元へ やってきました。

彼は、小さな桜の木の下で、
両腕を大きく広げ、 くるくると 回り始めました。

ふざけた子供のような動きの中に、
彼の苦悩が 見えました。

 

それまで ぎゅっと握り締めていた
こぶしを開き、
これ以上は 開かないほど
痛いまでに、手の平を 広げて。

彼は、なにかを
手放そうとしているようでした。

それと同時に、
なにかから  逃れようともしているようでした。

 

どたん、と大きな音がして、
彼は 地面に 倒れこみました。

大きく胸で 呼吸しながら。
目を 固く閉じて。

彼の瞼の裏側で、夜桜が くるくると 舞っている様子が、
小さな桜の木には 見えました。

彼女は、身体をくねらすと、
さらさらと たくさんの花びらを
彼の上に 散らしました。

「桜の毛布だな。」
目を閉じたまま、 彼は つぶやきました。

 

どれほど そうしていたでしょう。

それほど 長い時間では
なかったのかもしれません。

いつのまにか 眠ってしまっていた彼を
起こすかのように、
小さな桜の木は、 彼の頭上に、ぽとん、と
細い枝を 落としました。

ふわん、と 桜の花の香りが  あたりに 飛び散り、
彼は 目を覚ましました。

 

「早く帰らないと、風邪をひくわよ?」

小さな桜の木は、
彼のお母さんと そっくり同じ声色で
言いました。

「あはは。 まいったな。」

彼は、苦笑いしながら
小さな桜の木が落とした 細い枝を 片手に、
立ち上がりました。

 

「ありがとう。 これ、もらっていくよ。」

すっきりした表情になった彼に、
小さな桜の木は、
黙って うなずきました。

そして、
しっかりとした足取りで帰ってゆく
彼の後ろ姿を、
優しさと哀しみの入り混じった微笑みで、
見送ったのでした。

 

 

こうして、 花が咲いている間中 ずっと、
小さな桜の木は、
彼女を慕い集ってくる  ひとりひとりに、
自分の枝を 分け与え続けました。

枝が落ちたからといって、
幹の太さが 変わるわけでは
なかったけれど。

花のついた枝を 失っていく 彼女は、
どんどん やせ細っていくようにも
見えました。

 

そして、ある日。

最後の枝を 1匹の三毛猫のために 落とし、
枝をくわえて立ち去っていく 猫の背中を 見送ると、
小さな桜の木は、
つんつるてんになりました。

1本の枝、1枚の花びらすらも、
彼女には 残っていませんでした。

 

たくさんの花をまとい、
まだまだ咲き続けるつもりの
大きな桜の木たちが、
遠くから、彼女に 呼びかけました。

「おや、まあ。 なんてこったい。
他の誰かを 勇気づけるのも いいけれど、
少しは 自分のことも、考えなくちゃ・・」

小さな桜の木は、にっこりすると、
彼女にしては 大きな声で、 叫び返しました。

「いいんです。
あれは、みんな、わたしなの・・・」

 

‘小さな桜の木’は、彼女の 最後のお役目でした。

お友達とケンカした 小学生も。
最愛の人を亡くした おばあさんも。
ひとり なにかと闘い続けた サラリーマンも。

そのほかの、
彼女と会話し、 彼女の枝をもらって 帰っていった
ひとびと、
そして、彼女の最後の客、 あの三毛猫さえも。

みんな・・・
すべて、彼女の一部でした。

 

時間を 越えて
彼女は、その時代、時代に 立ち戻り、
その時代の彼女自身と再会し、
抱きしめてきたのでした。

 

小さな桜の木と出会ったことで、
それぞれの時代の‘彼女’に、
その後、なんらかの変化が あったかどうかは、
わかりません。

変化など あっては
いけなかったのかもしれません。

それでも、彼女は、
最後の姿として
小さな桜の木を 選んだのでした。

 

 

花も枝も失くして つんつるてんになった
小さな桜の木は、
ひとつ、大きな伸びを しました。

 

暖かい春の空気の中に、
溶けていくように。

彼女の輪郭が じわじわと にじんでいく
その様子に 気づいた者は、
誰も おりませんでした。

 

 

~2010.04.07 ~

 

 

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