~☆~ 光に触れるボディワーク&セラピー ~☆~ 埼玉県川口市の一日おひとりさま限定サロンです

桜狐

sakura01-006 桜狐

 

こんこんこん こぎつねさん
わたしのところへ来ておくれ
桜が咲いて 寂しいよ
こんなわたしのところには
だれも だれも きてくれぬ
こんこんこん こぎつねさん

 

小さな朱い鳥居が何十本も連なっているこの小道は、
神社へ続く裏門でした。

わたしは、ここを通るのが好き。

子供の頃、よく ここを通って、神社に行ったなぁ。

 

こんこんこん、こぎつねさん…

幼い頃 よく歌っていた手鞠歌を、歌うともなしに 口ずさんでいると、
とつぜん 茶色いものが、素早く 目の前を よぎりました。

え?

ガサッという草の音とともに、ひょいっと顔を出したのは、
小さな狐でした。

小さな細い、金色の声で、
狐は じっと わたしの瞳を 見つめました。

なに?

 

狐の声を聴くのが初めてだった わたしは、めんくらいました。

な、なに?…って?

 

なに?…って?…って、なに!!??

狐の子は、わたしを責めるように、目を細めました。

ただでさえ 細い目が、
ほとんど、開いているかどうかわからないくらいになっています。

 

きみが呼んだんだろ?

小狐は、金色の声を とがらせました。

♪ こんこんこん、こぎつねさんっ!

 

・・・あぁ。
どうやら、わたしの口ずさんだ手鞠歌が、
ほんとに 狐を 呼んでしまったようでした。

ごめんなさいね、
あれは…

わたしが 説明しかけたのと、
狐が にやりと笑ったのとが、同時でした。

また、かあさまに、叱られたんだろ。

 

やぁね、叱られるような歳でもないわよ…

笑おうとした わたしは、
両側にある 鳥居の柱がやけに太くなっているように感じ、
上を見上げました。

鳥居は、太くなっただけではありませんでした。

…高くなっていました。

いいえ。
鳥居が高くなったのではありません。

わたしが…
わたしが…

小さくなっていました。

 

お義母さんに叱られて、
泣きながら この鳥居の間を上った あの日のように。

わたしは、あのころと同じ、しもぶくれで 泣き虫の、
ちいさな女の子になっていました。

 

 

こんこんこん こぎつねさん
わたしのところへ来ておくれ
桜が咲いて 寂しいよ
こんなわたしのところには
だれも だれも きてくれぬ
こんこんこん こぎつねさん

 

この歌は、わたしが 母から教えてもらった 手毬歌でした。

母は その母から、祖母は その母から・・

子供が歌うには 暗い感じの歌ではありますが、
そんなふうにして伝えられた この手毬歌を、意味もわからず
幼いわたしも 歌っていたのでした。

 

さ、お乗りよ。

子狐は、わたしの前にしゃがみ、背中を 差し出しました。

小さくなった わたしにとって、
彼は もう 子狐では ありませんでした。

狐は、わたしを背に乗せると、
びゅんびゅん 風を切りながら、軽々と 階段を 駆け上がっていきました。

朱い鳥居が 次から次へと 後ろへ動いていきます。

あっというまに、神社の境内に 着きました。

 

狐さん、ありがとう。

背中から飛び降りた わたしを、狐は ちろっと 横目で見ました。

きみのところにも、桜が咲いたね?

 

さくら?
さくら。

えぇ、さくら。

さくらが、咲いた。
さくらが、生まれた。

かわいい、かわいい、さくらが 生まれた。

 

そう。
わたしのところに、妹が 生まれたのです。
それは それは かわいらしい赤ちゃんでした。

春に生まれたので、「さくら」と 名づけられました。

お義母さんも、お父さんも、さくらを とても 可愛がりました。

わたしを とくに 邪険にするわけではなかったけれど、
降り注がれる愛情の量の差は、
幼いわたしにも はっきりと 感じられました。

 

ぼくのところもさ、生まれたんだよ。
弟が。

狐は また、ちろりと わたしを 横目で 見ました。

春だから、そんなものだよね。

狐は 急に おとなびた口調で言うと、
背中に積もった寂しさを 振り払うかのように、ぶるん、と 一回
大きく 身震いをしました。

 

こんこんこん こぎつねさん

ふりかえると、
わたしと同じくらいの歳の おんなのこが、
わたしと同じ 手毬歌を 歌っていました。

 

こんこんこん こぎつねさん
わたしのところへ来ておくれ

おさげ髪のおんなのこの周りは、
なんだか もやが かかっているようでした。

桜が咲いて寂しいよ

おんなのこも、
おんなのこが 腰掛けている岩も、
その向こう側の景色も、
ゆらゆらと ゆれているように 見えました。

 

あれはね。
きみの・・・かあさまだよ。

隣で、狐が ぽつり、と言いました。

あのあたり、空気が 揺れているように見えるだろ?
空間と時間が ゆがんでいるんだ。

だから、ずっと ずっと むかしの、きみの かあさまが、
ここにいるんだ。
あれは、まだ 子供の頃の、かあさまさ。

 

あれが・・・子供の頃の、お母さん?

 

こんなわたしのところには
だれも だれも きてくれぬ

おんなのこは、わたしたちに 気づいていないようでした。

 

きみのかあさまも、かあさまを 早くに 亡くしたんだよ。

狐は、おんなのこのおさげが揺れているのを 見つめながら、
言葉を 続けました。

そのあと、かあさまの とうさまは 再婚して、
ほかにも子供が生まれてね。
かあさまは、いじめられたわけではなかったけれど、
とても 寂しい思いをしていたんだ。

 

こんこんこん こぎつねさん

おんなのこは、空を 見上げているようでした。

 

だけど、きみのかあさまも、あまりに 早く、逝ってしまったね。
きみのことを、
さいごまで、とても とても 気にしていたね。

こんこんこん こぎつねさん
こんこんこん こぎつねさん

 

わたしは、動けませんでした。

お母さんが、すぐそこにいる、というのに。

子供の姿をしたお母さんでも、いい。
駆け寄って、抱きしめてもらいたいのに。

あのぬくもりを、もういちど。
もういちどだけでいいから、感じたいのに。

 

こんこんこん こぎつねさん

おさげ髪のお母さんが、わたしを じっと 見ていました。

あどけない顔が、
ぐにゃり、と ゆがみました。

 

みずき・・・
・・・みずき!!

 

お母さん・・・

わたしが、駆け出しそうとした、そのとき。

 

みずきー!

背後から、声がしました。

みずきー!
どこにいるの?

みずきー!!

 

お義母さんの声でした。

みずき!
みずき!!

わたしが 声の方を振り返るのと、
お義母さんの大きな腕で 抱きかかえられるのと、
どちらが 早かったでしょう。

みずき!

 

お義母さんは、泣いていました。

あんたって、子は!
いつも こうして、心配をかけて。
お狐さまに さらわれてしまったかと思ったわよ!

・・・・・。

 

そうでした。
わたしが お義母さんに叱られるのは、
いつも、わたしの帰りが遅くなったときでした。

 

お義母さんは、わたしが憎くて 叱っていたんじゃないんだ。

お義母さんは、わたしを 心配して、
ここまで 探しに来てくれたんだ・・・

 

おなかのあたりで、
温かく まぁるいものが もぞもぞと うごめいていました。

 

はっとして 周りを見回すと、
おさげ髪のおんなのこも、狐も、姿を消していました。

わたしは、黙りこくったまま お義母さんと 手をつなぎ、
神社の正面の 大きな石の鳥居を くぐりました。

もういちど、後ろを 振り返りたかったけれど、
お義母さんに悪いような気がして、
そのまま まっすぐ 前を見つめて、歩き続けました。

 

こんこんこん こぎつねさん
わたしのところへ来ておくれ
桜が咲いて 寂しいよ
こんなわたしのところには
だれも だれも きてくれぬ
こんこんこん こぎつねさん

 

カサカサ・・・
乾いた草の音の向こうで、茶色いものが 動きました。

小さな狐が、一度だけ こちらを振り返ると、
声をかける間もなく、さっと 林の中へ 逃げていきました。

 

 

こんこんこん こぎつねさん・・・

いつのまにか おとなに戻っていた わたしは、
ふたたび小さくなった 朱い鳥居を、1本ずつ 確かめながら、
ひとりで 階段を 下りていきました。

こんこんこん こぎつねさん
わたしのところへ来ておくれ
桜が咲いて 寂しいよ
こんなわたしのところには
だれも だれも きてくれぬ
こんこんこん こぎつねさん

 

 

数ヵ月後。
わたしは、まだ 目立たないおなかを さすりながら、
この 小さな朱い鳥居が何十本も連なっている小道へ
やってきました。

 

わたしと 夫との間には、男の子が ひとり いましたが、
その子は、彼の前の奥さんの子供でした。

この子に、わたしのような寂しい思いをさせては、いけない。

いつしか そんな固い針金が
わたしの心を ぐるぐる巻きにしていたのでしょうか。

わたしは、自分で 子供を産むことを あきらめていました。

 

が、神社で 子狐と会った、あの日から。

あのとき おなかに感じた、温かくて まぁるいもの は、
わたしの中で、日に日に 大きく、確かなものへと
姿を整えつつありました。

 

ねぇ、ママ?
ぼくの弟は、いつ 生まれるの?

それまで 手をつないでいた子が 元気よく 手を振り払い、
わたしを 見上げて にっこりしました。

そうねぇ。
来年の、桜の花が咲く頃・・かしら。
でも、弟なのか、妹なのか、まだ わからないわよ?

うん。
ぼく、どっちでもいいよ?
弟でも、妹でも、いっぱい、いっぱい 一緒に 遊ぶんだ!

 

小さな朱い鳥居の間を 駆け出していく 小さな背中を 気にしながら、
わたしは、もういちど、呼んでみました。

♪ こんこんこん こぎつねさん!

 

目の端に、茶色いものが さっと 映ったような気がして、
鳥居の向こうの 大きな木のあたりを 目で探りましたが・・・

そこには、季節はずれの 大きなススキが 1本。
あの日の子狐のように 目を細めて、立っているだけでした。

 

こんこんこん こぎつねさん
わたしのところへ来ておくれ
桜が咲いて 寂しいよ
こんなわたしのところには
だれも だれも きてくれぬ
こんこんこん こぎつねさん

 

 

~2009.04.01~
 

 

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